親は子どものことを考えて毎日叱ったり褒めたりするわけですが、少し時間が経ってから「やっぱり褒めたほうがあの子のためになったかもしれない…」と後悔することも少なくありません。
同様に「期待すること」のバランスを取るのも、なかなか難しいことが多いですよね。
ただ、親や周囲の大人が子どもへ期待し続ければ、子どもの心を成長させ、能力を高めることにつながるという、いわゆる「ピグマリオン効果」は、様々な研究から明らかにされているものです。
そこで今回はそんなピグマリオン効果による研究や、成功した具体例、逆効果になってしまうNG行動について紹介していきます。
「ピグマリオン効果」とは?
子どもが勉強や習い事にやる気が無いと、「どうしてやらないの?早くやりなさい!」とつい叱ってしまうなんて人も多いでしょう。
しかし、教育心理学における研究では「やる気が起きないことを責める」のではなく、「周囲が期待する」ことがやる気の向上につながると言われています。
実際に教育現場や人材育成の場面でも使われている「ピグマリオン効果」とは何か、それが証明された研究や名前の由来について見ていきましょう。
子どもへの褒めや期待が能力や成績の向上に影響すること
ピグマリオン効果とは、「周囲がより期待をしたり評価が高いと、本人のパフォーマンスが上がったり、成果が出る」という心理効果を指します。
例えば、職場の上司がある部下に対して「この部下は仕事ができる優秀な人間だ」と思いながら、接していたとしましょう。
その上司の期待は態度に反映され、仕事内容を評価されるといったことで部下に伝わります。
最終的には部下はその期待に応えようと仕事に熱心に取り組み、結果を残すことができるというものです。
「子どもへの期待は成長につながる」ことを証明したローゼンタールの実験
確かに褒めたり、評価したりすることで成果が出るイメージは職場や学校など様々な場面で想像できますが、結果が出たのは、期待したことが影響しているのかは分かりません。
もしかしたら、元々本人の実力が高かった可能性も大いにあります。
ここで、過去にアメリカの教育心理学者・ローゼンタールが、アメリカのサンフランシスコでおこなった実験について紹介しましょう。
彼は、幼稚園や小学校で知能テストを行い、テスト結果から「今後成長が望まれる児童たち」をピックアップし先生に伝えました。
そして8カ月後に再び知能テストを実施したところ、成長すると言われた児童が他の児童に比べ成績の伸びが良かったことが判明します。
それだけではなく、期待をかけられた児童は勉強への興味関心や、自主性も高まっていたことが分かったのです。
しかし実際は、最初のテストで成長が望まれるとされた児童たちは、リストからランダムに選ばれただけで、最初の知能テストの結果は全く関係はありませんでした。
つまりこの実験を通してローゼンタールは、先生が無意識に出していた期待が、ランダムに選ばれた子どもたちの成長を促していたことを明らかにしました。
参考:NPO法人 JDP(日本深層心理研究会)「ピグマリオン教育とは」
「ピグマリオン」の言葉の由来は?
「ピグマリオン」という言葉がちょっと独特な響きなのは、ギリシャ神話に由来しているためです。
ピグマリオンの由来はこうです。
昔、彫刻家としても活躍するピグマリオンという王様がいました。
あるとき自分で造った女性像が美しすぎるあまり、彫刻に恋をしてしまいます。
ピグマリオンは愛が報われることを祈り続け、それを見ていた女神アフロディテによって女性像に生命が吹き込まれ二人が結ばれた、と伝えられています。
つまり、ピグマリオン効果は、願い続けたことによって不可能だと思われていたことが実現した、ということと「子どもの可能性を信じ、期待をかけることで成長につながる」ことをなぞらえて付けらられた言葉です。
「ピグマリオン効果」の具体例
ピグマリオン効果によって大成し、世界で活躍する人物は多いです。
バスケットボールの選手・八村塁選手もピグマリオン効果によって成功した一人。
八村選手と言えば、NBAのドラフト会議で日本人として初めて1巡目指名を受けたことでも有名ですね。
中学時代にバスケ部のコーチであった坂本穣治さんは、故郷を離れて高校に進学した八村選手に「お前は絶対にNBAに行く」という期待を、伝え続けていたそうです。
中学時代は自己中心的なプレーも多かった彼にとって、そんな坂本さんの期待やサポートはNBAを目指す大きな力になったことでしょう。
八村選手自信もその言葉を信じ、期待に応えようと努力を続けたことで、NBAで活躍できる選手という結果に繋がったのだと思います。
ピグマリオン効果は逆効果になることもある
私は子どもの頃、「あなたはいい高校に行ける頭の良い子」とプレッシャーをかけられ続け、その期待に疲れてしまった結果、勉強をせず遊んでばかりで成績が悪くなったことがあります。
これは、ピグマリオン効果が逆効果になってしまった「ゴーレム効果」が出てしまったケースです。
せっかく子どものやる気があったのに、大人からその芽を摘んでしまうのはもったいないですよね。
最後は、ゴーレム効果と、そうならないために親ができることについて紹介します。
期待が悪影響を与える「ゴーレム効果」
「ゴーレム効果」は、ピグマリオン効果と真逆の現象のことで、「周囲の期待の低さや無関心によって、その人が成果を出せない」という心理効果です。
これは子どもが「期待してもらえない自分はダメだ」と感じて、悪い結果を生んでしまうことの他に、期待をしすぎた場合も起こり得ます。
例えば子どもがサッカーを習っていて、「試合では絶対レギュラーになれる」と応援していたとしましょう。
子どもは必死に練習をしましたが、親に期待のされていたレギュラーになれませんでした。
そんな子どもに対して「レギュラーにならないとダメ、もっと頑張りなさい」と期待をかけ続けることで、子どもは「自分はダメなんだ」とやる気を失い、ますますレギュラーから遠のいてしまうかもしれません。
つまり、親の過大な期待に応えられないことで、余計に物事へのやる気を失ってしまう可能性があるということです。
もちろん、子どもに期待している気持ちを伝えることは大切です。ただ、伝える際は子どもにプレッシャーになりすぎていないか、親の希望を押し付けすぎていないか注意しましょう。
子どもに伝える時は「~にならないと」のようなネガティブな言葉ではなく、「きっと~になれる」のような、ポジティブな言葉に変えて伝えてみるのも一つの手です。
大切なのは本人のやる気を引き出すこと
ピグマリオン効果を子育てに取り入れるうえで大切なのは、子ども自身がやる気を出して行動できるように親がサポートすることです。
子どもが何かに挑戦しようとしている時は、肯定する姿勢を取りましょう。
努力して頑張っても達成できない時でも、「失敗しても大丈夫」、「困ったら一緒に考えよう」と伝えてみてください。
子どもと親、お互いが信頼し合い目標に向かって行動できるからこそ、結果が付いてきます。
そのために、まずは親自身が子どもを信じ、受け止める姿勢を忘れないようにしましょう。
そうすることで、子どもは安心して自分から行動に移すことができます。
親や周囲の大人は子どもに期待をし、その結果を全力で受け止めよう
ピグマリオン効果の概要や実験内容、具体例と、その逆効果にあたるゴーレム効果について紹介してきました。
ピグマリオン効果は「期待をすれば必ず結果が出る」わけではありません。
しかし、親や周囲の大人が子どもに期待していることを続け、失敗があっても受け止めてもらえる関係があってこそ、子どもは目標に向かって挑戦や努力をします。
子どもが勉強をしなかったり、習い事に熱心にならなかったりするのは、何か理由があるはずです。
やる気がないことを叱るのではなく、子どもの努力を認めてあげること、そして頑張りをしっかりと受け止めてあげることで、子どもは前向きになってくれます。
ポジティブな言葉を使いながら、ピグマリオン効果をねらって楽しく子育てをしていきましょう。