認知発達理論は、子どもの発達には段階があるという考え方です。
これは保育士や教師など、教育を専門とする人たちに多く学ばれている理論ですが、子育てをする親もこの理論を知っておくことで、子どもの成長をより理解することができます。
今回は、その認知発達理論を提唱したジャン・ピアジェの人物像や、認知発達理論の具体的な内容について紹介します。
4つの発達段階で有名なジャン:ピアジェってどんな心理学者?
(引用:日本ピアジェ会)
ジャン・ピアジェ(1896-1980)は、子どもには4つの発達段階があるという「認知発達理論」を提唱したスイスの心理学者で、現代の発達心理学において、最も重要な人物の一人と言われています。
ピアジェは子どもの頃から秀才で、10歳の頃には白スズメについて観察した論文をまとめ、その論文を「ヌーシャテル博物学史」で発表したそうです。
功績を認められたことで、生物学の研究を進め、次第に「生物学に認識論の問題解決の糸口があるのではないか」と考えるようになります。
その後ローザンヌ大学やチューリッヒ大学などで心理学を学び、複数の大学で心理学などを教えながら教育・児童心理学の研究をしていました。
子どもは「シェマ」をつくりながら発達するってどういうこと?
認知発達理論には、「シェマ」という考え方が出てきます。
日本ピアジェ会によると、シェマとは「過去の経験を通じて、未知の世界にあてはめていこうとする心的体制のこと」(引用:日本ピアジェ会)と定義されていますが、ちょっとこれだけでは分かりにくいですよね。
水泳を習い始めたとき、息継ぎやバタ足、腕を動かすといったことをいきなりやることはありません。
それぞれの動きがバラバラだと、うまく泳ぐことはできないからです。
そのため、まずは水面に顔をつけて息継ぎの練習をし、次に足だけでバタ足の練習をします。
慣れてきたら次は手の動きだけで練習するなどして、段階的に進めていくのが一般的な方法です。
全ての動きができるようになってきたら、それらを組み合わせながら繰り返し練習し、経験を重ねることで、動きがうまく繋がり、顔や手足が一つのシェマに統合されて泳げるようになります。
このように体を動かす場合でも、頭で考えることでも、シェマが他のシェマを取り込み、新しいシェマを作りながら発達していくというのが、認知発達理論で用いられている考え方です。
認知発達理論とは
では主題の「認知発達理論とは何か」ということを見ていきましょう。
ピアジェはシェマの質の変化に合わせて、子どもの認知発達を4つの段階に分けました。
【4つの発達段階】
- 感覚運動期
- 前操作期
- 具体的操作期
- 形式的操作期
発達の進み具合に個人差はあるものの、子どもが成長していく時はこの4つの発達段階を順番通りに経験していくと考えられています。
0歳~2歳|感覚運動期
感覚運動期は乳幼児期にあたり、感覚と運動の関係を学びながら発達していきます。
この時期は「循環反応」「対象の永続性」「表象機能」という3つの発達が特徴です。
循環反応
前述したように人はシェマをつくりながら発達しますが、最初は刺激に対して反射的に体が動くことことがきっかけとなっています。
小さい子どものうちはこういった反射に基づいて外の世界に働きかけながらシェマをつくり、刺激を感じたときに今まで経験したことと照らし合わせて同じ行動をとろうとするのです。
赤ちゃんが目の前の段差を降りようとしている場面を想像してください。
今までの経験(シェマ)に照らし合わせて、「このくらい足を伸ばせば降りれたから今回も同じようにしよう。」とやってみます(=「同化」)。
しかし段差が大きくて同じようにやっても降りられないとなった場合、「もっと足を伸ばそう」とか、「つかまっている手も伸ばしてみよう」と考えてシェマを修正するのです(=「調節」)。
そして試行錯誤して新たなシェマが獲得されます。
このようにして、乳幼時期の子どもはシェマの同化・調節を繰り返して発達していきます。
対象の永続性
月齢の低い赤ちゃんは、目の前にあるボールに布をかぶせて見えなくしてしまうと、すぐに興味を示さなくなります。
しかし少し年齢が上がってくると、同じようにボールに布をかぶせて見えなくなっても、子どもはボールがそこにあることを分かっていて手を伸ばして掴むことができるようになるのです。
目の前から消えてなくなってしまっても、物体はそのまま存在していると考えることを、ピアジェは「対象の永続性」と捉えました。
表象機能
表象とは目の前にないものを思い浮かべることで、表象ができるようになるのもこの時期の特徴です。
子どもは周りの大人や兄弟などの行動を見て、真似しながらできるようになっていきますよね。
この「真似をする」というのは、表象機能が発達することによってできるようになるものです。
このような認知の発達が言葉を話すための基礎となり、この感覚運動期に五感をたくさん使う経験をすることで言葉を上手に話せるようになります。
2歳~7歳|前操作期
前操作期は幼児期にあたり、7歳からの具体的操作期の前段階という時期です。
この時期は「自己中心性」「象徴機能の獲得」が特徴として挙げられます。
自己中心性
自己中心性とは、「わがまま」ということではありません。
自分の見えているものが相手にとってもそう見えている、自分の知っていることは相手も当然知っている、というようなことです。
そのため、「相手の立場に立って考える」ということはまだ難しく、周りの世界を自分の主観から捉えてしまいます。
象徴機能の獲得
2歳頃から言葉を話し始めると、思い浮かべたもの(表象したもの)を、言葉という別のもので表すこと(象徴すること)ができるようになります。
言葉以外だけでなく「見立て遊び(ごっこ遊び)」なども象徴機能が獲得されたことによってできる遊びです。
積み木を車のように動かして遊んだり、砂でケーキを作ったりなどの「見立てる遊び」が出来るようになるのもこの時期の特徴と言えます。
7歳~11歳|具体的操作期
具体的操作期は主に小学生くらいの時期にあたり、実際に存在する物事に対して論理的な考え方(具体的操作)が出来るようになる時期です。
この時期の特徴に「脱中心化」と「保存性」があります。
脱中心化
自己中心的な考えから脱するという意味で「脱中心化」です。
前操作期では「自己中心性」という、自分の視点でしか物事を捉えられなかったのに対し、7歳~11歳になると、自分以外の他の人の視点でも物事を捉えられるようになります。
保存性
「保存性」とは、物の状態や形を変えても、その物の重さや体積は変わらないという概念のことです。
例えば同じ重さの二つの粘土の塊を、一つ目は大きなまとまった塊、二つ目はいくつもの小さい粒に丸めたとします。
そうすると、具体的操作期より前の段階にいる子どもは「一つ目の大きなまとまった塊の方が重い」と捉えることがあります。
つまり「保存性」という概念を理解することが難しいのです。
しかし具体的操作期になると、「元々は同じ重さの塊だったから、どちらも同じ重さである」ということが分かるようになります。
このように具体的操作期では、見た物よりも理論で物事を考えられるようになるのです。
11歳~|形式的操作期
形式的操作期は概ね小学校高学年から中学生以上の時期にあたり、最終的な段階です。
この時期の特徴として、「抽象的思考」や「仮説演繹的思考」ができるようになることが挙げられます。
抽象的思考
抽象的思考とは、具体的な物がなくても言葉によって物事を捉え、論理的に考えられる思考のことです。
形式的操作期の段階に入ると、実際に自分が体験しなくても、話を聞いたりニュースを見たりするだけで具体的にイメージすることができるようになります。
仮説演繹的思考
演繹とは、一般的・普遍的な前提に当てはめて結論を導き出す方法のことですが、「仮説演繹的思考」の場合は、仮説を前提として結果を予測していくという違いがあります。
物事に対して仮説を立て、それを演繹的に証明する考え方ができるようになります。
ピアジェ教育って何?
ピアジェの提唱した「認知発達理論」を元に展開される教育を、ピアジェ教育と呼びます。
専用の教材を使用するもの、家庭で行うものなど内容はさまざまですが、共通しているのは前述した4つの発達段階をもとに、子どもの発達に合わせて働きかけるということ。
例えば、日本ピアジェ会が作成した教材は、ピアジェ博士監修のもと、それぞれの発達段階に合わせて作られています。
まとめ|子どもの発達や成長も個性!焦らずゆっくりと見守ろう
ピアジェの人物像や認知発達理論の概要、ピアジェ教育について解説してきました。
子どもの発達をこの理論に当てはめてみると、「なるほど、そういうことだったのか」と納得のいくことがありそうですね。
認知発達理論についてポイントをまとめると、次の通りです。
【認知発達理論とは】
- 4つの発達段階とは「感覚運動期」「前操作期」「具体的操作期」「形式的操作期」のこと
- 各発達段階を経て子どもは少しずつ成長していく
- 子どもの考え方と大人の考え方は違う
既にできあがっている大人の思考回路とは違って、子どもはシェマを少しずつ大きくしながら発達していきます。
子どもと一緒にいると「他の子はできるのにどうしてうちの子はまだできないのだろう」と不安になることもありますが、それはきっとシェマを大きくしている途中段階です。