幼児教育には様々なメソッドがあります。皆さんは「コダーイ・メソッド(コダーイシステム)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
日本ではあまり知られていませんが、コダーイ・メソッドは音楽を通した教育法の一つです。
今回は、このメソッドが生まれるきっかけとなった、ハンガリーの作曲家であるコダーイ・ゾルターンと、コダーイ・メソッドの内容について紹介します。
コダーイ・ゾルターンってどんな人?
(引用:日本コダーイ協会)
コダーイ・メソッドの内容に入る前に、まずはコダーイ・ゾルターンがどのような人だったのかについて、紹介します。(参考:日本コダーイ協会)
音楽に囲まれて幼少期を過ごす
コダーイは作曲家・民族音楽学者・音楽教育家です。
彼はハンガリーのケチケメートで生まれ、鉄道員だった父の転勤で引っ越したガラーンタに、長い間暮らしました。
コダーイの幼少期は音楽無しでは語れません。
ヴァイオリンを弾く父、ピアノを弾く母と音楽環境に恵まれた彼の家では家族や友人が音楽を演奏し、学校ではオーケストラ、教会にも音楽があり、彼は音楽に囲まれて育ちました。
ゴダーイ自身も繰り返しそのことを述べていたほど、彼の音楽教育の概念に大きく影響を与えた経験となります。
また、彼は幼少期からピアノレッスンを受け、教会では聖歌隊に入り、音楽の勉強に力を入れたようです。
ハンガリー民謡による音楽教育の実践を行う
やがて彼はオーケストラや合唱のためのミサ曲の作曲を手がけるようになりました。
1900年に奨学金を得てブタペストにあるエトヴェシュ・ロラーンド大学に優れた成績で入学し、それと同時にリスト音楽院の作曲科にも合格しています。
大学卒業と同時に、リスト音楽学院で音楽理論の教授となり、学生の読譜力の向上の為に尽力し、その後作曲の教授となったのです。
やがて彼は、「音楽を愛することは、自国語を愛し、その自国語を歌うことである」と説き、自らハンガリー民謡による音楽教育の実践を教育の中で行うようになりました。
これは、現在のハンガリーが世界の中でも有数の音楽国家を築いた土台となっている画期的な方法です。
彼は、幼少期から子供たちによい音楽を教えなければならず、大規模な作品を作曲する代わりにそのような作品に力を注ぎたいと考え、子どもたちに向けた合唱曲をいくつも作曲しました。
コダーイ・メソッド(コダーイシステム)とは?
コダーイ・メソッド(コダーイシステム)とは、コダーイが発明したメソッドと誤解されることが多いのですが、実際はコダーイの同僚や教え子たちによって開発されたメソッドになります。
しかしながら、その目標・理念・原理はコダーイが考案したものです。
コダーイの同僚や教え子が開発したハンガリー生まれの音楽教育法
コダーイ・メソッドとは具体的にどんな音楽教育法なのか、ポイントをまとめました。
- 幼児期の歌唱
- 母国のわらべうた(民謡)で音楽性を学べる
- 音を聞き分ける耳をもつ
- 五音音階
一つずつ見ていきましょう。
幼児期における歌唱は、本能的な要求であり喜び
コダーイはハンガリー科学アカデミー「ハンガリー民謡大観」(1953年発行)第1巻「遊戯うた編」の巻頭で歌うことについて、次のように述べています。
歌うことは子どもの本能的な言語であり、小さければ小さいほど、うたと一緒に動くことを要求する。音程と肉体運動との有機的関連は、わらべうたによく表れている。特に野外では、このことは大昔から、子ども時代の基本的な喜びの1つであった。
このことから、幼児期の歌というのは、昔から子どもたちが自然と楽しんでいた本能的な要求であり、喜びでもあるとコダーイが考えていたことが分かりますね。
参考:日本コダーイ協会
母国のわらべうた(民謡)
コダーイは、民謡の中にあるわらべうたには母国語の関係が見えるため、母国語の教育に最適であると考えました。
また、わらべうたには、民族音楽固有の特徴が現れており、これらを歌うことで自国の音楽的特性を無意識のうちに学ぶことができるだけでなく、運動面に関しても「うたと動きはわらべうたの中で結合される」とその関係性を示しています。
さらに「歌い継がれてきたわらべうたは芸術であり、子供たちにとって最良の教材である」と提唱しています。
これらの言葉から、わらべ歌はさまざまな地域で子どもの遊びの中から生まれ、伝承されてきたものであり、母国語の教育にはわらべうたを使うことが一番良い方法と考えられていたようです。
実際にわらべうたは、母国語の自然で心地よいリズムと抑揚もあり、擬音語・擬態語が多くて言葉の韻律が豊かでなめらかですよね。
歌うことで母国言葉を学び、運動能力も高めることができるのが母国のわらべうたであるとされている理由が分かります。
ソルフェージュ教育
ソルフェージュの元々の意味は、母音や階音で歌う声楽練習のことです。
コダーイは、真の音楽教育は音楽を理解して楽しむことであり、そのためには、音を聞き分けられる耳を持たなければならないと考えました。
音を聞き分ける訓練は、聴く力や集中力を付け、多面的な能力を育てることに繋がると言います。
そのため、コダーイメソッドでは、幼児教育では歌うことを通して音を聴く耳を発達させ、基本的な音楽知識を獲得させることを目的に取り入れられています。
五音音階
五音音階とはペンタトニックとも呼ばれ、半音を含まないドレミソラの5音で構成されているものです。
複雑な音域で話しているような私たちが日常会話で使っている音階は、実はこの5音階だけで構成されており、この音階の狭さは、声帯が未成熟な子どもにとって適しているそうです。
確かに、子どもはあまりにも高すぎたり、低すぎたりする音階で歌うことはなかなか難しく、思わず声を張り上げて歌う場面に出くわすことがありますよね。
ハンドサインの改良と子どもの教育への利用
ハンドサインは、手の動きで、ド・レ・ミ、・ファ、・ソ・ラ・シ(ティ)の音階や、音の高さ・リズム・音楽の表情などを示す方法です。(以下、ハンドサインの一部)
(引用:日本コダーイ協会)
コダーイは、イギリスの音楽教育家であるジョン・カーウェンによって考案されたハンドサインを改良し、子どもの教育に用いました。
先生は、自分の顔の前に手を出してハンドサインを出し、子どもはその音を歌います。
その音を歌っている間に、先生の手が次の音を示すので、子ども達の頭の中には、自分が出している音とハンドサインによって頭の中で想像する音が同じになるといった感じです。
コダーイ・メソッドを体験するには?
最後に、保育園や幼稚園・音楽学校や家などでもコダーイ・メソッドを体験できる方法を紹介します。
コダーイ・メソッドを導入している保育園や幼稚園、音楽教室を利用する
まだ数は多くありませんが、コダーイ・メソッドを実践している保育園や幼稚園は全国にいくつかあります。
そういった園で行われているのは、ピアノ演奏をしないこと、器楽よりも歌唱を優先して行うこと、わらべうたを積極的に歌うことといったもの。
例えば、千葉県の 社会福祉法人ひまわり 大日保育園では、コダーイの教えにしたがい、コダーイの楽器を使わず、保育士がわらべうたを歌うようにして、音楽能力や言語能力の発達を促す活動を取り入れているそうです。
また、大阪府の青桐保育園でも、わらべうたによる音楽教育を重視した活動が行われています。
伴奏を付けないことで、子どもが自分の調子で正しく、先生や友達と調和した音程で歌うことができるというわけです。
音楽教室でも、リトミックなど幼児期のうちはわらべうたを歌ったり、体を動かす活動が多く行われてます。
基礎を学んだ後の小学校へ入学する辺りから、音楽の読み書きを学び、合唱や合奏の楽しさを体験したり、楽器を取り入れたりすることで、音楽に対して豊かな感受性が育まれるように教えて行くところが多いです。
なお、全国の音楽指導者の有志による「全国わらべうた&コダーイネットワーク」では、わらべうたやコダーイメソッドを使っている団体が紹介されていますので、近くに取り入れている場所がないか探してみると良いでしょう。
家庭でわらべうたを取り入れる
もし近くにコダーイ・メソッドの園や教室が無くても、コダーイの理念に基づいて家庭で音楽教育に取り組むことができます。
ピアノ演奏やCDを使わずにわらべうたを歌ったり、体を動かしてみたりするのも、コダーイの教えを実践する一つの方法です。
まとめ
今回コダーイ・メソッドについて見てきたことをまとめると、次の通りです。
- コダーイ・メソッドは、コダーイの同僚や教え子が開発したハンガリー生まれの音楽教育法
- 幼児期は器楽演奏よりも歌唱のほうが子どもに合っている
- 母国のわらべうたを歌うことで自国の特性を自然と学べる
コダーイ・メソッドセンターなどでは、コダーイ・メソッドについて学べるセミナーや、わらべうたなどを取り入れたサークル活動などを実施しているそうです。
興味のある方は、最寄りに活動場所や参加できるサークルがないか調べてみると良いかもしれませんね。
(出典一覧)
・日本コダーイ協会
・名古屋コダーイセンター
・『世界へ広がったコダーイ・メソッド』岐阜大学
・『ハンガリーの幼稚園・小学校の音楽教育における伝承の歌遊びの意義』川村学園女子大学
・『コダーイの音楽教育思想とソルフェージ教育』名古屋女子大学