最近「自己肯定感」という言葉をよく耳にします。
「自己肯定感を高める」ことに関しては、育児書や子育て雑誌などで取り上げられているだけではなく、政府も積極的に取り組んでいますが、そもそも「自己肯定感」とは一体何なのでしょうか。
「自己肯定感」は実用日本語表現辞典によるとこのように定義されています。
自分のあり方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情などを意味する語。 自己否定の感情と対をなす感情とされる。
要するに、自己肯定感が高いとは「自分は大切な存在だと感じられる」こと、「かけがえのない存在だと思える」ことと言えます。
今回は、日本における自己肯定感について日本の現状を踏まえた上で、自己肯定感を高めるために家庭で気を付けたいことについて見ていきましょう。
日本の子どもは自己肯定感が低い!
他の国に比べると、日本の子どもの自己肯定感が低いことはご存知でしょうか。
青少年教育振興機構や、文部科学省の分析をもとに、諸外国と日本の子どもの自己肯定感の違いを見ていきましょう。
アメリカや中国などの諸外国に比べて自分を肯定して捉える子どもが少ない
独立行政法人国立青少年教育振興機構は、平成27年にある調査に関する報告を行いました。
その調査とは、「高校生の生活と意識に関する調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-」(2015年)です。
調査では、日本だけでなくアメリカ・中国・韓国の高校生に対しても行われましたが、そのうち「自己肯定感」に関わる項目において、日本の高校生は自己肯定感が低いことが分かりました。
【「自分はだめな人間だと思うことがある」に対する回答】
国 | ・まあそう思う | とてもそう思う
---|---|
日本 | 72.5% |
中国 | 56.4% |
アメリカ | 45.1% |
韓国 | 35.2% |
参考:「高校生の生活と意識に関する調査報告書-日本・米国・中国・韓国の比較-」(2015年)
例えば、「自分はだめな人間だと思うことがある」という質問に対し、「とてもそう思う」または「まあそう思う」と答えた日本の高校生は72.5%にものぼります。
つまり、回答した高校生のうち、3人に2人は「だめな人間だと思うことがある」と自分自身に否定的な考えを持っていたのです。
一方で、同じ質問に対し、韓国の高校生で「とてもそう思う」または「まあそう思う」と答えたのは35.2%。韓国の高校生で、自分に否定的な考えを持っている子は半分以下でした。
他にアメリカでは45.1%、中国では56.4%と、いずれも日本よりも少ない結果が出ています。
小学4年生と高校2年生を比較すると年齢が上がるほど否定的になりがち
このように、日本での子どものがこのように自己肯定感が低いことには、何か理由があるのでしょうか。
文部科学省の全国学力・学習調査によると、日本の子どもの自己肯定感は10歳ごろから下がっていっていることが分かっています。
日本の子どもは、自己肯定感が10歳ころから高校生にかけて下がりやすい
平成28年度に行われた全国学力・学習調査の中で「自己肯定感が高いと思うか」という質問がありました。
その質問に対し、小学校4年生では61.2%が「高い・やや高い」と回答しているのに対し、高校2年生ではわずか27.6%と半分以下となっています。
つまり、子どもの年齢が上がるにつれて、自己肯定感が下がっているということです。
自己肯定感は学力・達成感や意欲・規範意欲・自己有用感に左右される
文部科学省は子どもの自己肯定感を左右する要因として、下記の4点が深く影響していると分析しています。
- 学力:各教科の内容を理解できているか
- 達成感や意欲:達成感を感じているかどうか、意欲的な意識が持てているかどうか
- 規範意識:ルールを守っているか、人が困っているときに進んで動けるか
- 自己有用感:自分は役に立つと感じているか
この4項目「学力」「達成感や意欲」「規範意欲」「自己有用感」で否定的な回答をした子どもほど、自分にはいいところがあると感じている子が少ない傾向にありました。
小学校高学年といえば、学校の勉強が難しくなってくる時期ですよね。
例えば算数では割り算や少数、角度などが出てきて、ぐっと難易度が増してきます。
勉強につまずいたり、難しい内容に勉強への意欲が下がったりしてしまい、「自分はダメな人間だ」と自己肯定感が下がってしまうことが、理由の一つに考えられます。
中学生以降は、学校や部活での上下関係など、友人付き合いで悩むことも増えてくる時期です。
日本の子どもは特に自己有用感が低い
思春期の悩みの中で自分に自信が持てなくなっていくことは、ごく自然なことのようにも思えますが、日本の子どもにおける自己肯定感が他国よりも低い理由は何なのでしょうか。
それは、「自己有用感」が大きく影響しているからなんだそうです。
他国では「自分に長所がある」「物事に挑戦できる」といったことが自己肯定感を左右しているのに対して、日本の子どもは「人の役に立っているかどうか」=「自分に価値がある」と感じる子が多い傾向にあります。
「人の役に立ちたい」と思うことは日本人の美徳の一つとも言えます。
とは言え、人の役に立つかどうかで自分の価値を下げてしまう必要はありませんよね。また、それだけで友達や周囲の人を判断するようになっても困ります。
子どもの自己肯定感には親の言動が関係している?自己チェック
ところで、自己肯定感の高さには学校の勉強や友人関係だけではなく家庭での親子関係も大きく関わっています。
実は親の気付かないような、ふとした発言で、子どもの自信を無くしたり自己肯定感を下げてしまったりしていることがあるのです。
ここでは、いくつか気を付けておきたいポイントを挙げてみました。
- 子どもに「ダメ」という言葉を使っていないか
- 何をするにも心配しすぎていないか
- ほめるよりも足りないところばかり言っていないか
無意識のうちに子どもの自己肯定感を下げてしまうような発言や対応をしていないか、少し振り返ってみましょう。
子どもに「ダメ」という言葉を使っていないか
子どもをきちんとしつけなければと思うあまり、ついつい「ダメ」などの否定する言葉を使ってしまうことはありませんか。
私の場合は、子どもがスーパーで騒いでしまったとき、に周囲に迷惑がかかると思ってしまい「ダメ」と言ってしまいがちです。
もちろんマナーを守ること、他人を思いやることは大切ですよね。
ただ、「ダメ」と言われてしまうことで、子どもは自分自身を否定されたように感じてしまいます。
「お店では静かにしようね」など、できるだけ「ダメ」以外の言葉で子どもに分かるように伝えることが大切です。
何をするにも心配しすぎていないか
親であれば、子どもの心配をするのは当たり前ですよね。
しかし、子どもが失敗したり危ない目に合ったりしないようにと、過度に心配しすぎることは避けたいものです。
自己肯定感には「挑戦心」も大きく影響しています。
成功するか分からないことでも、「やってみたい」と思ったことに挑戦してみて、その結果、成功体験を積んで自信となり、自己肯定感を高めることに繋がります。
ときには失敗することもあるでしょうが、その経験がへこたれない気持ちを育むきっかけにもなりますね。
心配しつつも、「失敗しても大丈夫」とおおらかな気持ちで子どもを見守る姿勢を持ちましょう。
ほめるよりも足りないところばかり言っていないか
子育ての中で、子どものできないところや欠点ばかりに目がいってしまっていませんか?
算数は苦手だけど体育は得意な子がいたとしましょう。
すると、「体育が得意」という長所を褒めることなく、苦手な算数のことばかり指摘してしまうことがあるかもしれません。
しかし人それぞれ、得意なこともあれば苦手なこともあるものです。
できないことばかりを指摘されてしまうと、子どもは自分の長所を見失い自信を無くしてしまいます。
そうなると、「自分はできない子だ」と思ってしまい、苦手なことに取り組む意欲を失ってしまうことになりかねません。
子どもの短所ばかり気になってしまうときは、いいところにも目を向けて意識して伝えていくようにしてみましょう
参考:ゴーレム効果とは?やる気に悪い影響を与えないために親ができることや対策
子どもの自己肯定感を高めるために家庭で取り組めること
では、子どもの自己肯定感を高めるために、家庭で取り組めることをまとめてみました。
- 子どもに絵本の読み聞かせをする
- 脳や神経の発達が著しい幼児期のうちは叱るよりも褒める
- 一見難しそうなことにもスモールステップで挑戦して成功体験を積む
日頃の小さな積み重ねで、子どもは自信を付けていき、自分を肯定的に受け止められるようになります。
子どもに絵本の読み聞かせをする
絵本の読み聞かせは、子どもの感性や想像力を育てるだけでなく、自己肯定感を高めるきっかけにもなります。
絵本の展開に自分を重ねて成功を疑似体験
絵本は、主人公が困難に逢い、予想外のことが起きる展開が多いです。
それでも、他の登場人物が助けてくれたり、ひらめきで問題を解決させたりして、主人公は困難を乗り越えていきますよね。
この時子どもは、絵本の主人公と自分を重ねることで、成功を疑似体験して、達成感を味わうことができます。
絵本の読み聞かせで親の愛情を感じられる
絵本の読み聞かせには、「親の愛情を感じられる」という大きな効果があります。
例えば、お母さんが絵本を読むときを想像してみてください。
お母さんの膝の上に子どもが座り、お母さんの声を聴くことで子どもは安心することができます。
誰かの愛情を感じること、これが自己肯定感を高める第一歩であり、最も大切なことです。
脳や神経の発達が著しい幼児期のうちは叱るよりも褒める
人は褒められることで、「自分は認められている」と感じ、自己肯定感が育まれていきます。
逆に間違った叱り方は「自分には価値がない」と思わせてしまう可能性もあるため注意が必要です。
特に幼児期は、まだまだ成長している途中。叱られた理由が理解できない場合は「自分がだめだから叱られた」と感じてしまうことがあります。
ちなみに、褒められることで生まれる「嬉しい」というプラスの感情は、脳を活性化させることが分かっています。
脳の発達が著しい幼児期は、特に声に出して「~することができたね」と具体的に褒める機会をたくさん作っていきましょう。
一見難しそうなことにもスモールステップで挑戦して成功体験を積む
自己肯定感を高めるには、成功体験を積むことが大切です。
とはいっても大きな成功である必要はありません。まずは小さなことからひとつずつ積み重ねていきましょう。
アメリカの心理学者であるバラス・スキナーが提唱した「スモールステップの原理」があります。
これは、目標を小さな単位に分けて、できそうなことから進めていく方法です。
例えば、片付けが苦手な子がいたとします。
おもちゃや本で散らかった部屋をいきなり「片づけなさい」と言われたら、億劫で手が付けられませんよね。
そこでいきなり部屋全体を片付けるのではなく、子どもができそうな範囲で小さな目標を立てていくようにします。
- おもちゃを一つ片づけてみる
- 本棚に本を戻してみる
- ぬいぐるみを箱に入れる
一つずつ成功体験を積んでいくことで、「自分にもできるんだ」と自信をもち、苦手なことにも挑戦できる心を育むことができます。
子どもに難しそうだなと思う目標があれば、小さな目標を立てて少しずつクリアして自信を持たせてあげましょう。
まとめ|低すぎず、高すぎない自己肯定感のある子どもへ
日本の子どもの自己肯定感は、世界的に見て低い傾向にあるのは確かです。
しかし日本の子どもたちが「人の役に立つ」ことを重視している点は素晴らしいことであり、自己肯定感が低いからといって、一概に悪いとは言い切れませんね。
それでも、自己肯定感を高めていくことで、以前よりも積極的に挑戦したり、自信を持って発言したりすることができます。
子どもがありのままの自分の価値を認めてのびのびと育つことができるよう、家庭での関わり方を少し意識することから、始めてみましょう。