小学校で英語が必修化されたこともあり、昨今は子どものバイリンガル教育に注目する人が増えています。
バイリンガルという言葉を聞くと、まるで母語のように英語(外国語)をスラスラと話しているイメージがありますが、バイリンガル教育を行うことによる弊害やデメリットはないのでしょうか。
今回は、バイリンガルの一般的な定義や種類を踏まえ、バイリンガル教育のメリットや注意点についてまとめました。
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「バイリンガル」ってそもそもどいういうこと?
まず最初に、「バイリンガル」がどのように定義されているのかを確認していきましょう。
辞書的な定義「状況に応じて2つの言語を使う能力がある」
大辞林 第三版において、バイリンガルは次のように説明されています。
「状況に応じて二つの言語を自由に使う能力があること。または、その人。」
ケンブリッジ英語辞書では、次の通りです。
Able to use two languages equally well
(二つの言語を同等に上手く使うことができること)
言語研究者「状況に応じて2つの言語から選択し意思疎通ができる」
一方、専門家の見解では、辞書のような定義に同意していません。
ワールド・ファミリー・バイリンガル・サイエンス研究所のポール・ジェイコブス氏は、バイリンガルについて次のように述べています。
バイリンガルになるには、二つの言語を同じように完全にマスターしなければならないと信じ続けている人が多い。このように考えてしまうとバイリンガリズムは、到達することができない非現実的なものとなる。
(引用:Perspectives on Bilingualism in the World and and Japan:The Reality and Potential)
つまり、バイリンガルというのは、二か国語を同等にマスターしている人でも、それを問題なく使いこなす人でもないということです。
そこでポール氏は、バイリンガルを次のように定義しています。
バイリンガルとは言語で達成すべき課題の種類(例えば筆者の場合、日本の漫画を読むという課題)、状況的な領域(アメリカにいるのか日本にいるのか)、人生のライフ・ステージ(学生時代と就職後の段階)のそれぞれに応じて、必要なときに、二つの言語のうちで適切な言語を選択して使い、意思疎通を図ることができる人のこと
(引用:Perspectives on Bilingualism in the World and and Japan:The Reality and Potential)
バイリンガルの種類
このように、バイリンガルという言葉が「2か国語をペラペラに話せる」という意味合いとして単純に定義することは難しいです。
そのため、表現に誤解を招くことを避けるために、バイリンガルを細分化する方法があります。
種類で分けると、主に次の3種類です。
種類 | 意味 |
---|---|
コンパウンド(複合型) ・バイリンガル | 2つの言語を同じ環境で取得した人 物事に対する思考や概念体系は1つのみ |
コーディネート(対等型) ・バイリンガル | 異なる環境で2つの言語を学んだ人 (例 家と学校で違う言語を話す) |
サブ・コーディネート・ バイリンガル | 2つの言語を使える 1つの言語がもう一方より優勢 |
英語を話せて、日本語もある程度理解できるが、日本語はカタコトになるといった場合は、3つ目の「サブ・コーディネート・バイリンガル」にあたります。
子どもをバイリンガルに育てるデメリットとは?
小学校で英語が必修化されたことや、将来の選択肢を増やしてほしいといった願いから、子どもをバイリンガルに育てたいと親は多いです。
しかし、バイリンガルに育てるためには、親子そろって、膨大な課題をこなすことになります。
注意点やデメリットをまとめました。
- 他の子どもに比べて言葉に遅れが出る
- どちらも言語も中途半端な「セミリンガル」になる可能性がある
- 日本在住で両親がどちらも日本人だと英会話教室やスクールの費用が掛かる
他の子どもに比べて言葉に遅れが出る可能性がある
子どもがバイリンガルになるためには、二つの言葉に触れることになります。
当然、各言語がインプットされる時間は半分です。
つまり、子どもの中に語彙力がインプットされ、言葉が溢れ出るようになるには、他の子よりも時間が掛かる可能性があります。
一方で、「乳幼児期に英語に触れることで言葉の発達が遅れる」という研究は古い研究や理論が多く、近年の研究では「何ら影響がない」むしろ「2か国語を学んだほうが優位になる」といった見解も出てきており、バイリンガル教育は言葉の発達を遅らせるとは一概に言い切れないのも確かです。
他の子に比べて言葉の遅れが気になったら、2か国語分の語彙力を吸収している最中だと思って、少し様子見してみるようにしましょう。
どちらも言語も中途半端な「セミリンガル」になる可能性がある
1か国語のみを話す人をモノリンガルと言いますが、それやバイリンガルとは別に「セミリンガル」という言葉があります。
二つの言語を学び、どちらの言語でも日常会話が可能、発音もネイティブであるにも関わらず、学習や少し難しい話になると対応できなくなる状態のことです。
発音 | ・書き | 読み・学習 | 抽象的|
セミリンガル | ○ | △~× | △~× |
バイリンガル | ○~△ | ○ | ○ |
最近では「セミリンガル」という言葉自体が差別用語として使用される頻度が減り、代わりに「ダブル・リミテッド」という言葉で呼ばれています。
ダブル・リミテッドの子どもは、2か国語を混ぜて使っても自分の言いたいことを表現できなかったり、そのことが原因で人との関係がうまく築けないなどの問題を抱えやすいです。
英語ばかりではなく日本語の絵本にも触れるなど、どちらの言語もバランスよくふれるようにしたいですね。
日本在住で両親がどちらも日本人だと英会話教室やスクールの費用が掛かる
日本人の両親のもとで、日本国内で生まれ育つと、耳に入ってくる音のほとんどが日本語です。
そのため、バイリンガルに子どもを育てるなら、それと同等量の学習を英語でも行っていかなければいけません。
毎日英語の歌や音楽を流し、絵本やDVDを流すことから始め、英会話教室やオンライン英会話を利用したり、プリスクール(英語で保育を行う園)へ通ったりすることになります。
家庭で使う英語教材の購入、習い事のレッスン費用、スクール通学費などを総合すると、相当な金額になることは間違いありません。
例えば、家庭用英語教材の一つであるディズニー英語システムは、教材をフルパッケージで購入すると約100万円もします。
しかも、どれだけお金を掛けようと、絶対に効果や実力がつくわけではないのがバイリンガル教育の難しいところです。
それでも子どもをバイリンガルに育てる?メリットはあるの?
このようなデメリットを抱えてまでもバイリンガルに育てる親が多いのは、どのような理由があるのでしょうか。メリットをまとめました。
- 学校や社会に出ても発音に自信を持てる
- 将来のキャリアや選択肢を広げられる
- 新しい言語を習得しやすい
学校や社会に出ても発音に自信を持てる
2020年度から小学校3年生以降を対象に、外国語活動が必修化となりました。
近年、英会話教室は習い事としての人気が高く、英語を習っている子とそうでない子ではかなりの差があります。
大人になって英語の発音を習得するのはそう簡単なことではありませんが、子どもの頃に身に付けた発音は一生モノです。
発音良く英語を話せる力や、英語で学べる力があれば、その後の人生においても自信を持てるに違いありません。
将来のキャリアや選択肢を広げられる
バイリンガルになれれば、将来のキャリアや選択肢がかなり広がります。
英語やフランス語など世界で広く使われている言語を習得することで、国連職員、外資系企業、商社、外国人秘書、通訳・翻訳士、貿易事務などの職を目指すことも可能です。
高校や大学で英語圏の学校に進学することもできます。
英語が苦手だから…という理由で、それを避けるように進路を選ばずに済むわけです。
バイリンガルになることで開ける世界は広く、子どもの可能性を広げることができるでしょう。
新しい言語を習得しやすい
サーファーとして活躍する五十嵐カノア選手は、英語や日本語だけでなく、ポルトガル語やスペイン語、フランス語に堪能なマルチリンガルです。
モノリンガルからすると、4か国語や5か国語も話せるなんてことは驚きですが、バイリンガルの場合、3つ目以降の言語の習得がしやすいことが指摘されています。(※)
※吉川敏博「バイリンガル脳の二つの言語」(2017,天理大学)
前半でも触れた通り、バイリンガルにも習得度が異なるため、バイリンガルだからといって必ずそうなるとは限りませんが、4か国以上を習得する可能性があると、未来を感じさせられますね。
子どもをバイリンガルに育てる方法って?
結論から言うと、バイリンガルに育てるために「これをやれば絶対大丈夫!」というようなものはありません。
親がバイリンガルであっても、国際結婚や海外在住で子育てを海外でしたとしても、必ずその子どもがバイリンガルになるとは限らないからです。
あくまでも参考として、バイリンガル教育をしている人の取り組みをいくつかを紹介します。
0歳児の頃からCDのかけ流しをするなど英語環境を整える
子どもをバイリンガルにするには、英語環境を整えることが必須です。
日常生活の中に英語が溶け込んでいるような環境が望ましいと言われています。
そのため、バイリンガル教育の手始めとして「おうち英語」に力を入れて取り組んでいる人が多いです。
おうち英語とは、英会話教室や幼児教室ではなく、自宅で行う英語教育のことをいいます。
例えば、赤ちゃんの時に英語の歌や音楽を毎日かけ流すことで、日本人が不得意としている「r」と「l」、「s」と「th」の音も聞き分けられるようになるといったものです。
日本語を話せない親が無理にカタカナ英語を使わなくても、ネイティブの発音が聞けるような優れた英語教材を使えば、悩むこともありません。
手軽に始められる通信教材として「こどもちゃれんじEnglish」や「英語ポピー」などがあるので、まずは無料体験を利用してみましょう。
関連:失敗しないおうち英語の進め方。親が英語を話せなくても大丈夫!
英語の絵本をたくさん読む
ある程度英語の音に慣れてきたら、英語絵本をたくさん読むようにしましょう。
図書館で借りてくるのもいいですし、ネイティブの音声と一緒に読める絵本や、無料で英語絵本が読めるサイト「Oxford Owl」などを利用する方法もあります。
(引用:Oxford Owl公式)
子どもの興味のある分野から楽しめそうな本を選んであげたいですね。
関連:子どもの英語学習に取り入れたい!英語絵本の多読にはどんな効果がある?
プリスクールに通う
英語圏でいうプリスクールは、3歳から5歳の子どもが就学前に通う幼稚園のことですが、日本では英語でカリキュラムが進められる保育施設のことを指します。
※プリスクール(prescool)…Pre(以前の)school(学校)
一般的には、2歳からですが、0歳から受け入れている保育施設もあるようです。
家庭で取り組む時間がなかなか取れないという場合、プリスクールは英語を習得するのに最高の環境と言えるでしょう。
ただ、プリスクールは無償化の対象には入っていないため、費用は掛かります。
月2万円から8万円、その他ランチやイベント参加費など負担は大きいです。
さらに、その後インターナショナルスクールへ進学するとなると、授業料が年200万円掛かることも珍しくありません。
お金に糸目を付けないのであれば、検討してみると良いでしょう。
ホームステイの受け入れなど英語をアウトプットできる機会を設ける
どんなに英語教育を熱心に行っていたとしても、日本に住んでいる限りなかなか英語を使う機会は多くありません。
英語はインプットだけでなく、気持ちや考えを英語で表現するようなアウトプットの場を重ねることが大切です。
打開策としては、ホームステイの受け入れや留学といった方法があります。
例えば、Homiiというホームステイ斡旋業者を利用するのも一つ。ホスト側の負担無く受け入れられるので、家庭でも英語を使う場を設けたい家庭におすすめです。
まとめ|バイリンガル教育は心とお金に覚悟と余裕が必要
バイリンガル教育のデメリットやメリット、バイリンガル教育をする方法についていくつか紹介してきました。
本記事のポイントを整理すると、次の通りです。
- バイリンガルは広義的に捉えるもの
- バイリンガル教育で言葉の発達が遅れるかどうかは決着のついていない問題
- バイリンガル教育を徹底するなら相当な費用が掛かる
- プリスクールやインターナショナルスクールは高額
バイリンガル教育で2か国語が話せるようになれば、将来海外で働くなどキャリアの選択肢が広がるだけでなく、表面的には分からないような価値観や文化理解も進みます。
ただ、日本人の両親が、国内でお金をあまりかけずにバイリンガル教育ができるかは、かなり微妙なところ。色々な教材を揃えるにしても、英会話教室に通うにしても、ある程度費用が掛かることは避けられません。
バイリンガル教育をするなら、そこは割り切って進めていくようにしましょう。
なお、最近では幼児期でも利用できるオンライン英会話が増えていて、無料体験を実施しているスクールも多いです。比較的割安で、毎日レッスンができるなど便利に使えます。
オンライン英会話についてはこちらの記事で選び方やランキングを詳しくまとめているので、ぜひ参考にしてください。