2020年度から、小学校でプログラミング教育が始まっています。
ただ、「プログラミング教育は必要ないのではないか」「小学生のうちから始めるのは早いのではないか」といった声が全く無いわけではありません。
中には、小学校でプログラミング教育を始めたのは失敗だったなんて言う人もいます。
しかし、アメリカやイギリスでは、小学生のうちからプログラミング教育をすることで取り入れることで、人材育成に繋がっているといった報告もあるなど、世界の取り組みは進む一方です。
そこで今回は、次の点に注目して記事をまとめました。
- IT人材不足と言われる日本の現状
- プログラミング教育は必要ない、無駄と言われる理由
- それでもプログラミング教育を行う必要性とは
記事全体を通し、今一度プログラミング教育の必要性について、考えてみましょう。
日本はIT人材不足の危機に陥っている?
IT人材とは、IT(情報技術)の知識やスキルを活用し、システム開発やソフトウェアの作成、情報化戦略などを行う人材をまとめて称したものです。
具体的には「システムコンサルタント・設計者」、「ソフトウェア作成者」、「その他の情報処理・通信技術者」などの職務があります。
そのIT人材ですが、今からたった10年後に、日本においてかなりの人材不足に陥るという予想が、経済産業省から報告されていることをご存知でしょうか。
以前に比べてSE(システムエンジニア)など、IT関係の仕事に就く人は増えているイメージもありますが、IT人材が不足すると、どんな問題があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
2030年には最大で約79万人の人材不足に陥る可能性があることが発表された
経済産業省と厚生労働省、文部科学省が行った試算では、IT人材の不足数は、2030年に最大で約79万人に拡大する可能性があることが分かりました。
需要が少なかったとしても約16万人、今の状態からそのままのペースでIT化が進んだとしても、約45万人の不足が試算結果として出ています。
(引用:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」)
LINEの公式アカウントで荷物の受け取り設定ができたり、芸能人と会話しているようなメッセージが届いたりするのは、AI(人工知能)が活用されているから。
身近で既に使われ始めているAIを始め、IT関連市場の需要は今後も拡大すると言われています。
国を上げてIT人材の育成や確保をしていくことが重要視されている
IT人材不足を解消するためには、IT人材の育成や確保に力を入れなければいけません。
供給が追い付かなければ、外国からIT人材を呼び込むことになるでしょう。
職場がグローバルになると、英語など外国語の勉強をする必要も出てきそうです。
結局、IT人材の不足は、将来的に日本人が中心となって経済を支えていくことが難しくなることを意味しています。
そのため、対策として経済産業省では、若手IT人材の発掘と育成をするために、以下のような取り組みを行っています。
- セキュリティ・キャンプ
- U-22プログラミング・コンテスト
- 未踏IT人材発掘・育成事業
- 全国IT部活活性化プロジェクト
さらに、学習指導要領改訂に向けて以前から文部科学省が進めてきた「プログラミング教育」が、公教育で必修化されるなど、IT人材の育成や確保に向けた動きが強まっています。
小学校で始まったプログラミング教育を「無駄」と考える意見もある
既に小学校では、プログラミング教育が開始されています。
プログラミングとはそもそも、コンピュータを動かすための指令を、プログラミング言語を用いて記述することです。
これは、IT業界で働く上で重要なスキルと言えますが、世間では小学校のプログラミング教育については、「無駄」「意味がない」といった意見を唱える人もいます。
なぜ、このような批判的な声があるのでしょうか。
プログラミング的思考を育むことが目的だから
小学校で行うプログラミング教育は、プログラミングを身に付けることではなく、「プログラミング的思考」を育むことが目的です。
この「プログラミング的思考」について、文部科学省の資料では、次のように説明されています。
自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが 必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたら いいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に 近づくのか、といったことを論理的に考えていく力
(引用:文部科学省「小学校プログラミング教育の趣旨と計画的な準備の必要性について」)
例えば正三角形をコンピュータでかく場合、「正三角形をかく」という命令は用意されていません。
そのため、「スタートボタンがクリックされたとき」→「ペンをおく」→「長さ100進む」→「左に120度曲がる」→「3回繰り返す」などの命令を組み合わせることになります。
プログラミングを組む際に必要となるこういった考え方は「論理的思考」と呼ばれ、プログラミング教育はあくまでもこの論理的思考を育むためのツールです。
プログラミングの言語やスキルに触れないわけではありませんが、IT人材にするためのスキルを習得することがねらいではないため、「それでは意味がない」と考える人がいるのでしょう。
プログラミングに特化して専門的に学ぶ時間は設定されていないから
「プログラミング教育の必修化」と言いますが、小学校では「プログラミング」という専門の教科が設けられているわけではありません。
では、一体どの時間に行うのかというと、算数や理科、総合的な学習の時間などの授業の中で取り入れていきます。
そのため、どこまで授業で扱うかは学校や先生の裁量に任せられていることが問題視されているようです。
確かに、学校の方針や先生の技量によってプログラミング教育の時間がバラバラだと、学校や地域によって子どもの理解度やスキルが大きく変わってくる恐れがあります。
学校側の指導体制が十分に整っておらずあまり意味がないから
文部科学省の指針では、プログラミング教育は全てパソコンで行う必要がありません。
そう言っても、パソコンやタブレットを使った授業を全く行わないわけにもいかないので、どの学校でもICT環境を整備する必要があります。
生徒1人あたり1台の端末が使える環境が望ましいですが、2019年3月1日時点でのコンピュータ1台当たりの児童生徒数は平均で5.4人/台となっており、1人1台はほど遠い数値です。
(引用:文部科学省「小学校プログラミング教育の趣旨と計画的な準備の必要性について」)
これでは子どもに待ち時間ができてしまいますし、IT人材の育成につなげるのもなかなか難しいと言えますね。
それでも子どものうちからプログラミング教育を行う意味とは?
課題や批判も多いプログラミング教育ですが、世界各国で数年前からプログラミング教育への取り組みが熱心に行われるなど、今や世界的に欠かせないものとなっています。
子どものうちからプログラミング教育を行う意味について考えてみましょう。
AIと共生していくための論理的な思考力が今後必要になる
これからの社会はIoT(身の回りのモノがインターネットにつながる仕組み)、AI(人工知能)、ロボットなどの技術革新がますます進展する世の中となります。
あらゆる職業がAIにより自動化されることが予想されるため、AIと共生していく力を身に付けることが必要です。
AIに使われるのではなく、AIをツールに仕事をするには、物事を順序立てて考えたり、必要な指示をしたりするような、論理的思考力が必要となります。
ただ、論理的に考える力は、そう短期間で瞬時に身に付くものではありません。
子どものうちから毎日少しずつ身に付けていくことで鍛えること、コンピュータの仕組みを知ることが大切なのです。
スマホ中心の生活でパソコンやキーボードを使えない子が多い
筆者は以前、子どもがパソコンの画面を触って動かそうとしているのを見て、タッチパネルを指で感覚的に動かすことに慣れてしまっていることに気付きました。
最近では「新卒の社会人でも、パソコンの電源の付け方から教えないといけなかった」なんて話も聞くくらい、パソコンやキーボードがうまく使えない若年層が増えているそうです。
パソコンを使ってインターネットを利用する子どもは全体のたった8%
実際、内閣府の調査では、低年齢層の子ども(0歳~9歳)のインターネットを利用する機器の上位は、スマートフォンが31.2%、タブレットも27.4%に上っています。
(参考:内閣府「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査調査結果」)
一方で、ノートパソコンは5.3%、デスクトップパソコンは2.9%と、パソコンを使ってインターネットを利用する子どもはたったの8.2%しかいません。
パソコンの無い家庭が増えていること、パソコンがあっても、スマホやタブレットで十分ネットが使えるため必要性を感じないことで、学校でパソコンを習得するしかなくなっている現状です。
今後もマウスやキーボードを使ったパソコン操作、システムへの理解は求められる
スマホやタブレットのアプリを使えば、確かにある程度のことはできるくらい便利になっています。
しかし、これだけスマホやタブレットが普及しても、マウスやキーボードを使ったパソコン操作は社会人になって当然として求められるスキルの一つです。
また、中学校や高校でプログラミングの言語や仕組みを理解していくうえで、マウスやキーボードを使ったパソコン操作は欠かせないものです。
より高次的な学習をしていくためにも、プログラミング教育を通して、小学校のうちからコンピュータ操作に慣れていく必要があります。
小学校のプログラミング教育はスキルよりも論理的思考力が優先
日本の現状や、プログラミング教育が必要ないとされる批判的な意見、必要な理由について改めてまとめると、次の通りです。
【日本の現状】
- 日本は2030年に最大で約79万人のIT人材不足に陥る可能性がある
- IT人材の育成や確保は経済や社会の状態を考えると急務
【プログラミング教育が必要ないと言われる理由】
- プログラミング教育はスキルを身につけることを目的にしていない
- プログラミング教育で身に付けるのは「プログラミング的思考」
- プログラミングに特化して取り組む専門教科ではない
- パソコンは1人1台どころか6人1台のICT環境整備不足
【プログラミング教育を行う意味】
- あらゆる職業がAIに自動化される将来を考えると論理に考える力が必要
- スマホやタブレットは操作できてもパソコンを操作できない子どもが多く、中学校や高校で高次元の学習に取り組むのが難しくなる
世界に比べてICT環境の整備が遅れている日本では、各自治体が予算を確保してタブレットの支給や、WiFiの設置に乗り出すなどしていますが、まだまだ満足な環境には至っていません。
いくらやる気があっても、実際にシステムを動かすための手段が無ければ、試行錯誤を繰り返して正解にたどり着くようなことできず、論理的思考力を育むことも難しいでしょう。
プログラミング教育について否定的な意見もありますが、今後IT人材が日本でかなり不足することは既に試算されている通りです。
AIと共生していけるようなスキルを身に付けられるためには、学校の取り組みだけではなく、家庭でも、プログラミング教育に対する親の理解や、サポートが必要になってきます。
小学生以上のお子さんをお持ちの方は、プログラミング教育について家庭で話題に出してみましょう。まずは、学校でどのようなことをしているのを、ぜひ尋ねてみてください。