近年注目を集めている「EQ」は、心の知能指数と呼ばれています。
テレビ番組ではやたら知的な知能指数を意味する「IQ」の高さが良いように扱われていますが、人間が生きていくうえでは「EQ」の高さも大事なんだそうです。
そこで今回は、EQとは具体的にどのようなことを言うのか、そしてEQを高めるために何ができるのかということについて解説していきます。
心の知能指数「EQ」とは?
世間一般ではIQの高さが持ち上げられることが多く、世界には「MENSA(メンサ)」と呼ばれる、「全人口の内上位2%のIQの持ち主が入れる国際グループまであります。
一方、心の知能指数と呼ばれる「EQ」についてはあまり知られていません。
ただ、社会で生きていくには「EQの高さ」が大事と言われていて、近年日本でも大変注目されているものです。
ではいったい「EQ」とは何なのかについて、詳しく紹介していきます。
EQ(非認知能力)とIQ(認知能力)の違い
徳山大学の「EQ教育の効果測定のための尺度開発」によると、EQは次のように定義されています。
EQとはEmotional intelligence Quotientの略語であり、…、自分や他者の感情を認識したり、表現したり、コントロールする能力と定義されている
(引用:徳山大学「EQ教育の効果測定のための尺度開発」一部省略)
つまりEQとは、自分の感情に気付くことや他人を思いやること、それを表現したり制御したりすることです。
一方、知能指数を意味する「IQ」は、算数や読み書きなどができる知的能力を言います。
この知的な能力のことを「認知能力」と呼ぶことから、相対するEQのことは「非認知能力」と呼んでいます。
では非認知能力とは具体的にどのようなことなのか、より詳しく見ていきましょう。
社会を生き抜くためには非認知能力が重要になる
学校の勉強は、認知能力を問われる課題や問題が多く、「頭のいい子」ほど良い成績を取ることができます。
仕事でも、認知能力が高いほうが処理速度が速く、仕事もバンバンこなせることでしょう。
一方で、頭が良くても性格に難のある人や、部下を叱ってばかりの人もいます。
ある程度仕事ができても、そんな人はたちは社会で生きていくためにはなかなか愛されないキャラになりがちです。
では、人間関係を良好に保ち、周りからも信頼される人はどのような人かと言えば、相手に感謝を伝えられる人や、感情に流されず冷静に対処できる人です。
つまり、相手のことを思いやったり、自分の感情をコントロールしてうまく表現したりできる力である非認知能力が高ければ、社会に出ても周りとうまくやっていけるということになります。
学力だけでなく自己肯定感などの内面的な「生きる力」を育むことも大切
非認知能力は、自己肯定感や忍耐力などの内面にも関係しています。
いくらIQが高くても、内面性を磨かない限り他人との関係はうまくいきません。
そのことを、文部科学省は旧学習指導要領改訂にあたり「生きる力」として説明しています。
生きる力とは「知・徳・体のバランスのとれた力のこと」。「変化の激しいこれからの社会を生きるために、確かな学力、豊かな人間性、健康・体力の知・徳・体をバランスよく育てることが大切」
文部科学省保護者向けパンフレットより一部抜粋
つまり、IQだけでなく子どもの人間性や内面性を育むことについても注目すべきというわけです。
EQを測ったり、診断したりすることはできる?
ただ、EQを正確に測ることは難しいとされています。
確かに、ネット上にはEQを測ったり診断できたりするようなものもありますが、IQの高い子どもであれば、どの答えを選べばEQが高くなるかまで計算して選ぶ可能性があるからです。
例えば、採用試験などでもストレス耐性を測るといった目的でEQテストを用いているところもありますが、自分を良く見せようとつい別の回答をしてしまうなんてことがあります。
子どものEQレベルをチェックしようとしても、自分の本心とは違った答えを意識的に選んでいれば、正確な数値は出てきません。
幼児期における非認知能力の高さは将来に良い影響を与える
過去に、非認知能力と学歴や年収との関係について研究を行った人物がいます。
ノーベル賞受賞経験のある経済学者ジェームズ・ヘックマン教授です。
彼は、非認知能力が将来に与える影響について、40年もの間追跡調査を行いました。
すると、3歳から4歳で非認知能力の高かった子どもは、その40歳代の時点において、犯罪率が低いこと、年収が高いこと、自分の家を持っている割合が高いなど、「よりよい生活」を送っていることが分かったそうです。
IQが試される成績については小学校入学後しばらくは非認知能力の高い子どもが優勢なものの、次第にその差は埋まりました。
ただ、40年後の生活にここまでの差が生じたのは、子どもの頃における非認知能力の高さ(自制心や粘り強さ、動機づけ)が影響しているのではないかとヘックマン教授は分析しています。
参考:国立教育政策研究所 総括客員研究員 遠藤利彦「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書」
つまり、今後の社会を生き抜くためにも、子どもの将来のためにも、幼児期においてEQを高めていくことは、良い意味でその後の人生に大きな影響を与えるはずです。
幼児期からEQを高めるために親ができることは?
周りの友達との関わり方を見ていると、子どもが優しい性格なのか、感情をコントロールできる子なのかといったことは何となく見えてきますよね。
EQはIQのように簡単に測れるものではありませんが、幼児期の間にEQを高める方法はあります。
自尊心や忍耐強さなどの非認知能力を高めるためにできることを、いくつか集めました。
- スキンシップなどの愛情を注ぐ
- ポジティブな言葉を日頃から伝える
- 絵本の読み聞かせをする
- 子どもとの会話を増やす
一つずつ見ていきましょう。
スキンシップなど愛情を注ぐ
EQを高めるには、土台が必要です。その土台とは、いつでも親が見守ってくれていて、困ったときには助けてもらえるという「安心感」と「信頼感」です。
安心感と信頼感の中で、やりたいことに集中して取り組むことでEQが高まります。
この土台を作るために、毎日簡単にできることがスキンシップです。
下の子ができると上の子まで気が回らなくなることもありますが、日頃から抱きしめてあげてください。
ポジティブな言葉を日頃から伝える
幼児期の肯定的な言葉掛けもEQを高める上で重要です。
「大好きだよ」「あなたならできるよ」とポジティブな言葉伝えることで、子どもは愛されていることを実感できます。
安心感や信頼感を得た子どもは、認めてもらえているという自尊心が育まれるほか、物事に対しても前向きに取り組むことができるはずです。
参考:親の期待が子どもに影響するピグマリオン効果は子育てに有効?過度な期待は逆効果になってしまうって本当?
絵本の読み聞かせをする
絵本の読み聞かせは、登場人物の行動や心情を、あたかも自分のように体験することができます。
読み聞かせなら、自分で絵本を読めるようになる前の子どもにも有効な手段です。
子どもの言語能力を促進したり、想像力を豊かにしたりするといった効果に留まらず、他者の心情を推し量ること、すなわち他者を思いやる力を育むのに役立ちます。
子どもとの会話を増やす
子どもがそばにいても、スマホばかり見ていることはないでしょうか。
子どもが一生懸命に話しかけているのに、視線はスマホ、適当な相づちばかりでは、子どもの感情や気持ちを表現する力はなかなか伸びません。
例えば、子どもが転んで泣いている時は、親が「痛かったね」と子どもの気持ちを代弁することで、子どもは@自分は痛いから泣いているのか」と、行動と気持ちを結び付けて考えられるようになります。
大人との会話は、子どもの語彙力を増やすだけでなく、他者の心情を理解する力、自分の気持ちを表現する力を身に付けられる絶好の機会です。
改めて、子どもと会話をすることを意識してみましょう。
幼児期は非認知能力を高めることを意識しよう
EQの概要やIQとの違い、幼児期に非認知能力を高めることの重要性について紹介してきました。
学校の授業や成績にしろ、進学にしろ、子どものうちは認知能力の高さがやたらとつきまといます。
ただ、IQの高さだけはなく、子どものうちから自己肯定感を高めたり、相手を思いやったりするような非認知能力を高めることも大切です。
就学前から算数や英語の知識をせっせと身に付けさせるのも一つですが、今後子どもたちが人との関わり合いながら生きていくうえで非認知能力は欠かすことができません。
幼児期のうちは、愛情を注ぐことや絵本の読み聞かせなどを通してEQを高めることを意識するようにしていきましょう。