ドイツの教育学者で、世界初の幼稚園を創り世界に広めた「フリードリヒ・フレーベル」という人物がいます。
フレーベルが唱えた教育理念や教育法は、子どもたちを育てる大人にヒントを与えてくれるものが多く、200年経った今でも色あせることがありません。
そこで今回は、幼稚園創設という偉業を成し遂げたフレーベルの人物像や、幼稚園創立への経緯、フレーベルの教育理念や特徴について、詳しく紹介していきます。
幼稚園の創設者「フレーベル」ってどんな人?
幼稚園の創設者であるフレーベルは、どのような人物だったのでしょうか。
彼の生い立ちから、幼児教育に携わるようになった経緯を見ていきましょう。
自然に対する思い入れの原点は、孤独な子ども時代にあり
フレーベルの子ども時代は、母の他界や父の再婚などがあったことで、多感な幼少期のほとんどを裏山の自然の中で過ごしていました。
自然に対する思い入れの原点はここではないかと言われています。
孤独な日々は、フレーベルが10歳の時、母方の伯父ホフマンが、フレーベルを引き取ってくれるまで続きます。ここで初めて幸せな家庭というものを体験し14歳まで生活しました。
教師の仕事や教育学者「ペスタロッチ」との出会いを機に教育学を研究
その後大学に入学するも、学費に困り退学。職を転々としながら移り住んだフランクフルトで、フレーベルに人生の転機が訪れます。
知人の紹介で就いた「教師」という仕事が自分に向いていると気付かされたのです。
そして初等教育学者であるペスタロッチと出会い、彼の教育理念に深く感銘します。彼と一緒に2年間生活し、多くのことを学びました。
1813年、ナポレオンのドイツ侵攻が始まった時は、義勇軍の一員になりますが、その従軍中の出会いが、フレーベルの学校設立の原動力となっていきます。
フレーベル教育の開始と、世界初の幼稚園創設
1816年、フレーベルは、学校を設立します。その学校は、翌年、「ドイツ教育舎」と改称され、これがフレーベルの教育実践の始まりです。
1826年、「人の教育」という本を発行、1831年、スイスで教育実践、1835年、ブルクドルフで教員養成を始めます。そして、この頃からフレーベルは、幼児教育へ深い関心を持つようになっていきました。
フレーベルは、ドイツに戻り幼児教育実践を開始。そして、1837年に「一般ドイツ幼稚園」が創設され、これが世界初の幼稚園となりました。
幼稚園の語源「Kindergarten」の造語はフレーベルによるもの
「Kindergarten(もしくはKindergarden)」は、フレーベルの造語です。
弟子や後世の人々は彼の功績に感謝し、亡くなった後に、幼児教育の場をそのように呼ぶようにりました。
もちろん、日本の「幼稚園」は、それを訳したものです。
フレーベルの教育思想は?
フレーベルの教育思想は、「子どもを神的な存在として捉えること」「子どもを遊びを通して学べる環境づくり」に表れています。
幼稚園の原点となっているフレーベル教育の思想について、ちょっと掘り下げてみましょう。
子どもは「神的な存在」
フレーベルは、子どもを「神的な存在」として捉えていました。
梅光学院大学の吉岡氏の研究によると、フレーベルはこれを次のように説明しています。
子どもが見せる「常に何かを生み出そうとする姿は」まさに神のような存在で、その欲求を満たすために「子どもは、遊ばなくてはならない」
『フレーベルの子ども観―象徴的存在の視点において』より引用
つまり、子どもとは、絶えず自分を自分で発達させようとするもので、何事でも理解しようと活動するものであると言うのです。
そして幼児教育の在り方について、フレーベルは次のように述べています。
「人間は誰でも、既に幼時から人類の必然的、本質的な一員として、認識され承認されかつ保育されるべき」
『フレーベルの子ども観―象徴的存在の視点において』より引用
フレーベルは、知識を与え詰め込ませるような早期教育ではなく、子どもの本性と個性に従って教育を施すことを大切することを重要視しました。
幼児教育とは、受動的・追随的でなくてはならず、フレーベルにとって幼稚園は、子ども達の健全な発達のために存在しているのです。
フレーベル幼稚園の環境
フレーベル幼稚園では、子ども達が遊びを通して学べる環境が整えられています。その一つが、花壇、菜園、または果樹園からなる庭です。
「植物に日照や水を与える、必要であれば剪定する」ことにより、その植物は元気に根を張り、枝を伸ばし、青々と成長します。
「自然の中で植物が育つ姿」は子どもの成長に、また「育てる過程」は教育と重ね合わせられ、子ども達にとって、その経験は大変重要であるとフレーベルは考えていました。
また、フレーベル幼稚園には、子どもが遊びながら様々な事を学んでいける遊具(恩物、ドイツ語でガーベ:神からの贈物)が用意されています。
この恩物は、フレーベルが研究を重ね、そして弟子たちが研究を続け開発されたものです。
(恩物の詳細については後述を参考にしてください。)
フレーベル教育の特徴
フレーベル教育で行われているのは、自然との触れ合い、恩物、歌であり、すべて子どもが大好きなことばかりです。
「子どもが好きなもので遊び、その遊びを通して自主的に集中的に学んでいく」そして「やり遂げ、達成感・満足感が味うことで情緒が安定し、自分を成長させる」3つの要素について、それぞれの特徴を見ていきましょう。
自然や庭での遊び
前述の通り、フレーベル幼稚園には、必ず庭があります。
それは、庭師が植物を育てる際に植物の本性に従って世話をするように、教育者も子どもの個性や本質に従ってその成長を見守り、育てていくことを大切にしているためです。
植物を育てることから自然に触れ、観察し、自然の中で遊ぶことを推奨していることがよく分かりますね。
恩物(積み木)を使った遊び
子ども達が、楽しみながら健全な発達を遂げていくためにフレーベルにより考案された遊具、それが恩物です。
恩物は、フレーベルが10年、その後も弟子たちが研究に研究を重ね開発された遊具で、子どもの科学的観察に基づき、正確に計算されながらも、子どもの自然の欲求に従いながら作られたものと言われています。
恩物は20種類あり、そのうちの10種類は幾何学につながる玩具で、今でいう積み木です。
フレーベルの積み木は、円柱、立方体、三角柱、直方体など様々な形が正確に計算されて作られています。
子どもは、積み木を自由に組み立てることで、想像力、空間・立体認識力、つまりは、空間的知性(※)と理論数学的知性を養うことができます。
※:愛知江南短期大学「フレーベルの「恩物」及びモンテッソーリの教具活動の意義について」)P105より
つまり簡単に言うと、子どもは積み木遊びを通して、数学的・科学的な力を身に付けられるということです。
またフレーベルは、その積み木が専用の箱にピッタリを収まるのを経験することで、秩序や一体感を体験することも可能であると指摘しています。
音楽や歌の遊び
乳児期や幼児期から大人と一緒に手足を動かしながら歌う活動は、運動器官の成長や、言葉の発達を促すものです。
さらに子どもの歌には、「うれしい」「楽しい」などの前向きな表現が多く含まれています。
そのため、幼児期に楽しく大人と歌うことは、子どもの情緒を安定させるだけでなく、健全な子どもの発育にとても良いと考えられており、フレーベル教育でも歌の時間を大切にしているようです。
フレーベル教育は自己発達を促して情緒の安定と成長を育むもの
フレーベルの教育思想は、保育者、親、子どもと関わる大人すべてが時々は立ち返り、子どもとの日々を考え、より良いものにしていくのに役立つことでしょう。
植物・自然とのふれあい、恩物を使いながら行う遊び、生活の練習、製作やお絵かき、お遊戯や歌、どれも子どもの自己発達を促すものばかり。自己発達の機会を与えられた子どもは、満足し情緒も安定します。
フレーベル教育に特化した幼稚園に通うのも一つですが、まずはフレーベル教育の実践を、家庭での過ごし方に取り入れてみてはいかがでしょうか。