「ピラミッドメソッド」とは、世界一幸せな子どもたちを育て上げた教育方法と言われています。
日本でも少しずつ注目されてきていますが、「はじめて耳にする」という方や「聞いたことはあるけどどんなものだろう…」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、ピラミッドメソッドの概念や具体的な方法などについて、ご紹介していきます。
ピラミッドメソッドとは?
ユニセフの研究機関から発表された「先進国の子どもの幸福度に関する最新の報告書」(2013)によると、オランダは「子どもの幸福度評価ランキング」で1位になったことがあります。
(※日本は報告書に必要な指標データが足りないため総合評価の対象外)
国立社会保障・人口問題研究所の研究者 阿部彩氏(当時)によると、この幸福度は「子どもの貧困を、所得という側面だけではなく、生活必需品の有無、健康、教育、住宅、問題行動と、子どもの生活をより直接的かつ多角的に測っている点で、とても貴重なデータ」なんだそうです。
つまりこの調査結果からオランダは、子どもの生活を取り巻く環境の整備が進んでおり、社会全体が子どもの成長をサポートしていることが分かります。
子どもの幸福度が高い国であるオランダで生まれたピラミッドメソッドとは、一体どのような教育法なのか、まずはその由来や目的について見ていきましょう。
ピラミッドメソッドの発祥は?
ピラミッドメソッドは、新しい時代の幼児教育カリキュラムとして、1994年にオランダの政府教育評価機構によって開発されました。
開発にあたって目指したのは「誰もが理解して実践できるようにする」カリキュラムにすること。
そこで理論と実践の関係を目で見てわかりやすくするために、ピラミッドの形に理論をあてはめ整理しました。
そのことからピラミッドメソッドと名前が付けられています。
「自分で選択して決断できる力を養うこと」に重点を置いた幼児教育法
一般社団法人 子どもと育ち研究所によると、たくさんの教育や心理学の理論から導き出されたピラミッドメソッドでは、「『自分で選択して決断できる力を養うこと』に重点を置いて」いるそうです。
子どもが何かを選択する場面で、親や先生の顔色や反応を見て決めている姿を見たことはないでしょうか。
大人の反応を見て動くことができるのもコミュニケーション能力の一つかもしれませんが、それは自分で選択したり、決断したりしていることではありません。
オランダでは、子ども自身とその意思が認められており、子どもの出した決断を周囲が温かく見守るような環境があるため、子ども自身が自分の判断や行為に自信を持つことができるそうです。
そのためピラミッドメソッドでは、日々の遊びの中で子どもが自分で考え、選び、決めるというプロセスを重視した内容となっています。
8つの発達領域にバランスよくアプローチする
カリキュラムは、子どもの発達を8つの領域に分けてアプローチできるように作られています。
8つの発達領域とは、「個性」「情緒」「運動」「芸術」「知覚」「言葉」「思考」「空間と時間の理解」のことです。
- 個性…遊びの種類によって区切られた保育室をつくる
- 情緒…友達と遊びながら自分の感情をコントロールする
- 運動…体全体と巧緻性の両方をバランスよく発達させる
- 芸術…自分の感性をそのまま表現できるように関わる
- 知覚…プログラムにより全感覚を使い、経験の中から学びを得る
- 言葉…子ども同士のコミュニケーションを促す
- 思考…空間の整備が思考力の発達につながる
- 空間と時間の理解…空間を認識し、適した使い方を学んだり、季節感を取り入れて時間の概念を育てる
※プログラムの詳細は後述しています。
この8つの発達領域が保育室の中に存在するように環境を整える、ということが保育者の重要な役割とされています。
ピラミッドメソッドの4つの基礎石(基本概念)って何?
(引用:Pyramid Method 幼児教育法)
ピラミッドは4つの基礎石で支えられているという考えをヒントに、ピラミッド・メソッドでは「子どもの自主性」「保育者の自主性」「寄り添い」「距離を置く」という4つの基本的な概念が編み出されました。
これら4つの概念がお互いに働き合うことで活動の基礎となります。
4つの概念についてそれぞれ見ていきましょう。
子どもの自主性|やる気
学んで成長するためには、自主性つまり「やる気」にさせることが重要です。
子どもは安心出来る環境の中で自分が受け入れられていると感じることができて、初めてやる気が生まれます。
つまり「子どもの自主性」は、認められているという気持ちがあることで、発揮されるという考え方です。
保育者の自主性|働きかけ
保育者からの子どもへの働きかけには2つのポイントがあります。
1つは、安心感を与えることです。安定した環境や、子どもが自信をもてるようにするような働きかけが求められてます。
もう1つは、教育的な観点からの関わりです。ねらいをもって活動を進めたり、子どもの発達段階を見極めたうえで発達を促すような支援をしたりすることが求められます。
寄り添い|養護的内容の基盤となる理論
子どもが母親と良い関係を築くことで、他者とも良い関係を築くことができると言われている「アタッチメント理論」をご存知でしょうか。
「お母さんは子どもにたっぷりの愛情を注ぎ、たくさん抱っこしてあげてください」とはよく言われますが、ピラミッドメソッドではこの理論が保育者と子どもの関係にも当てはまると考えられています。
つまり「寄り添い」は、保育者と子どもが良好な関係を築くことで、子どもは安心して遊ぶことがでて、友達とも仲良くなれるという考え方です。
距離を置く|教育的内容の基盤となる理論
4つ目の概念「距離を置く」は、目の前にあるものだけではなく、目に見えないものについても考え学ぶことが子どもの発達を促す上で重要だとする「ディスタンシング理論」に基づいています。
発達段階に合わせて、子どもに身近で具体的なことから取組みを始め、徐々に外の世界・抽象的な世界へと導く中で、表現することに挑戦させて発達を促します。
目の前にあるものとは具体的な事物(くつ、はさみ、犬など)を、目に見えないものとは、時間など抽象的なものを指し、それを少しずつ表現できるような取り組みをするということですね。
ピラミッドメソッドって具体的にどんなことをしているの?
これまでピラミッドメソッドの歴史や概念について説明してきました。
では実際、どのように実践されているか具体例をいくつか紹介します。
子どもの自主性を育むための環境を整える
環境づくりには、おもちゃや保育室などの物理的な環境と、保育者の関わり方などの人的環境の2つがあります。
物的環境を整える
安心して遊びができる場でなければ、子どもたちは自分から遊ぼうとしません。
そのために、まず安全を確保することが何よりも大切です。
そして何をして遊ぶかを子どもが自分で考えて決めることができるように、遊びごとに保育室を区切ることで、いっそう集中して意欲的に遊ぶことができます。
また、発達が促される遊び・おもちゃを用意して、様々な好奇心を刺激するようにします。
人的環境を整える
保育者は、子どもたちの「認められたい」という欲求を受け止め、安心できるような関わりをします。
居心地の良い空間があるからこそ、「学びたい」という欲求が自然に芽生えてくるものです。
そして適切に声をかけたり、時に見守ったりしながら、その子の発達に合わせた関わりをします。
月ごとに1つのテーマを決めて「プロジェクト」に取り組む
子どもにとって遊びは生活そのものであり、遊びを通してさまざまなことを学んでいきます。
その中で、発達を促すための明確なねらいを持たせるのが「プロジェクト」です。
プロジェクトの種類
プロジェクトは、子どもたちの日常生活における身近なことをもとに考えられています。
プロジェクトのテーマは11種類(1か月1プロジェクトで進める)。
テーマに沿ってその内容と、ねらいとする発達領域が定められています。これらのテーマはそれぞれ、ねらいとする発達領域を定めています。
テーマ | 内容 | 発達領域 |
---|---|---|
空間 | 自分自身の「からだ」を出発点にして徐々に広げていく | 空間 |
水 | 様々な探索と発見、多様性のあるテーマ | 探索 |
色と形 | 色、形、分類するということを、ごっこ遊びを通じて学ぶ | 思考 |
家 | 最も身近にあり安心のよりどころである「家」を丁寧に探索 | 言葉 |
秋 | 変化を実感できる季節。時間の経過を体験 | 時間 |
数える | 楽しいお誕生パーティーで「数えること」「数」を体験 | 思考 |
衣服 | 「衣服」を通して想像力を膨らませる | 言葉 |
クリスマス | 相互のつながりと協力関係を育む | 情緒 |
大きさ | 順序だてる、系統立てる、物事を整理して考える力を育む | 思考 |
交通 | 命を守る | 言葉 |
春 | 草花や動植物に注意を向け、変化を発見 | 時間 |
(引用:Pyramid Method 幼児教育法)
「プロジェクト」と聞くと何だか壮大に感じてしまいますが、何か特別なことをするのではありません。
いつもの保育活動に、保育者が準備した「学ぶことを意識した遊び」を取り入れるだけです。
プロジェクトの進め方
プロジェクトの進め方は、次のような4つのステップで進めていきます。
- 説明
- 体験
- 理解を広げる
- 理解を深める
説明
まず保育者が今日の遊びについて具体的な説明をします。
楽しい雰囲気を作り、子どもたちの興味を引きつけるような関わりがポイントです。
体験
次に保育者が遊び方のお手本を見せます。この時もただやってみせるだけではダメです。
特徴を話したり、子どもの身近な経験と関連付けたりすることで。子ども自身に遊びの方法を感覚として体験させていきます。
理解を広げる
そして今度は子どもたちが実際に遊ぶ番です。
ピラミッドメソッドでは遊びのテーマを定めているだけなので、遊び方が子どもよって異なることもあります。
これは悪いことではなく、どの子も自分の発達段階に合わせて充分に遊べるため、子どもにとってはメリットです。
保育者はそのプロジェクトのねらいとする発達領域の発達が促されるように、声かけや見守りなどその子に合わせた支援をすることになります。
理解を深める
最終的には目の前で体験した遊びを、今まで得てきた体験と関連付けていきます。
ここで子ども自身が考えることがとても大切です。
ピラミッドメソッドではこれを繰り返していくことで、子どもたちは次第に抽象的な概念を理解できるようになると考えられています。
ピラミッドメソッドを実践している保育園や幼稚園は?
ピラミッドメソッドを実践している保育園や幼稚園は、国内でまだそう多くありません。
主な保育園や幼稚園、こども園は次の通りです。
- ピラミッドメソッド千葉保育園
- 星の光幼稚園
- りっしょう子ども園
- 社会福祉法人南友会 かんらんこども園
- 社会福祉法人大阪婦人ホーム 子ロバ保育園
もし近くの園がピラミッドメソッドを実践していないとしても、子どもたちの成長や発達のために色々な仕掛けや指導を行っている園はたくさんあります。
家庭でも遊ぶ場所を区切ったり、テーマに沿って遊びを進めたりするなど、全ては難しくても少しずつ取り入れることは可能です。
上述した「プログラムの進め方」を参考に、子どもの抽象的な概念を広げるような働きかけをしてみましょう。
子どもが安心して遊びに全力になれる環境づくりを進めよう
ピラミッドメソッドの発祥からその内容や概念、具体的な実践例について確認してきました。
ピラミッドメソッドを実践している保育園は日本ではまだ数少ないですが、子どもが親や保育者を信頼し、居心地の良い環境を作ることは、家庭でも実践することができます。
子どもにたくさん愛情を注ぎ、のびのびと自由に自信をもって遊ぶことができることは、自主性ややる気を育むことに繋がるはずです。
最近では、部屋の中にテントを張ってテントごっこをしているうちに秘密基地にしてしまったり、自分が落ち着ける空間にしたりするといった話も聞きます。これも自主性があってこその遊びですね。
どんな力を付けるための空間を作るかを考えながら、ご家庭でもピラミッドメソッドを取り入れてみてはいかがでしょうか。